安価な耐震改修工法講習会等に関する技術的なご質問回答
重要なご質問及び回答は各年度から抜粋し、『木造住宅低コスト耐震補強の手引き』の第5章に載せています。
平成25年2月21日(木)に開催された『安価な耐震改修工法講習会』の受講者の方より提出されたご質問について、以下のとおり回答をいたします。
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工法に関する質問等
■減災協工法について
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Q.
評価番号A-003の場合、かさ上部分は一番下部分に根太がある場合は?根太があると駄目なら床をやぶらない方法は難しい。
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A.
根太を含めて土台の幅で密実に補てん材が配置されれば良いです。この場合、補てん材、根太と土台が一体となるよう仕様を参考に釘打ちをして下さい。
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Q.
部分開口構造用合板補強A-003~A-006の壁長さ900mmを超えるバージョンを評価してほしい。L:1350、1800
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A.
今年度より、優先順位をつけて実験を行っていきます。今年度実験を行いましたので、H25年度中に一部は評価される予定です。
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Q.
評価シート内に間柱の記入がないが、写真図には記入有?又、取り付けの場合の大きさは30×90でよいのか?3つ割なら35×105となる。
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A.
裏桟なしの仕様以外は、30×90以上の間柱を@455以下(壁長さ1,000の場合は@500以下)に設けてください。
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Q.
参考価格は税込み価格でしょうか?
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A.
参考価格は、税抜き価格です。
■木造耐震診断及び耐震補強について
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Q.
構造用合板を用いた在来補強方法 3尺×6尺の9m/mの合板を張る場合、切り欠きがない場合、間柱、上下材のジョイント部に機材なしで貼った場合、4周(柱、梁、土台)のみN50釘を150@で打てば、5.2KN/mの壁基準耐力をみてよいですか?また、3尺×6尺の12m/mの合板を貼る場合、間柱、機材なしでN50釘を100@で打てば、5.2KN/mの壁基準耐力をみてよいですか?(切り欠きなし、四周打ち可能)
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A.
5.2kN/mより低い壁基準耐力となります。今年度横貼り裏桟なしの実験をして、評価する予定です。
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Q.
構造用合板による耐震補強にて、壁面の反対側の仕上状況(塗り壁等振動の弱い仕上)で、合板周囲を釘留めでなくビス留めで行う場合の耐力壁としての有効性はどうか。(N50と同等長さ、太さ)原則、釘留めであるが、そうした場合何らかの耐力の低減率は考えられないか。
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A.
釘接合と、ビス接合では破壊モードが異なります。釘接合は、釘の引抜けが耐力壁の靱性(ねばり)に大きく寄与しますが、ビス接合では、パンチングアウト(頭抜け)若しくは縁切れが発生し、靱性は期待できませんので、実験により評価する必要があります。今年度一部の仕様にビスを用いた実験・評価を行う予定です。
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Q.
改訂WEEにて、精算法禁止となっていますが対応策を教えてください。
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A.
手計算、若しくは市販のプログラムを用いて算出を行って下さい。尚、愛知県建築物地震対策推進協議会で発行している計算プログラムでは、精算法の計算の一部が行えます。本講習会資料(木造住宅低コスト耐震補強の手引き平成24年度版)の設計例4.4を参考にしてください。
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Q.
精算法での四分割法の話が、わからなかった。
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A.
(一財)日本建築防災協会「木造住宅の耐震診断と補強方法」の本文では、精算法においては、偏心率より求めることになっていますが、Q&Aにおいては、一般診断法と同じ四分割法でもよいと書かれている説明でした。
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Q.
耐震補強を安価に、また合理的に行う方法として、今までは瓦屋根をそのままにする場合、基礎は全く考えませんでしたが、現実問題として、基礎Ⅱ→Ⅰは有効でしょうか?
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A.
基礎Ⅱ→Ⅰとするためには、基礎をしっかり補強する必要があるため、コストがかかります。金額で判断すると、高い壁基準耐力の耐力壁を増やす方が安価です。しかし、基礎をⅡ→Ⅰにすることで担保される安全性は高いと考えられます。
例えば、南面に新たに耐力壁を設置できない場合、外周部から基礎を補修できる場合などは、新たに壁を設けなくても耐力評価、偏心の改善に有効です。
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Q.
設計・監理料率の目安はありますか?工事費の何%でよろしいか?
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A.
設計・監理の内容によって一概には言えません。
■その他質問等
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Q.
建築確認を伴う耐震補強の場合に使用可能な工法があれば、整理して紹介願えれば、ありがたい。
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A.
現在評価している耐力壁で、壁倍率の認定や確認申請の構造設計に用いる事ができる認定を取得しているものもあります。評価シートの概要その他欄を参照ください。今後整理していきます。
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Q.
木造のスキップフロア、(0m~1mや1m~1.5m高さがずれている)壁の耐震補強方法や改修方法があれば、教えてほしかった。
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A.
スキップフロアの補強方法や改修方法は、建物全体にかかわることですので、一概に示すことが難しいと考えられます。(公財)日本住宅・木材技術センター著「木造住宅の許容応力度設計2008年版」を参考にして補強方法、改修方法の検討を行ってください。
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Q.
昨年8月に地震予測が見直されましたが、各地の予測震度は、既にHPに掲載されていますか?
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A.
内閣府中央防災会議のHPに掲載されています。
行政・実務者からの要望とそれに対する回答
平成24年度に行政担当者の方、実務者の方から寄せられたご要望について、以下のとおり回答をいたします。
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工法に関する質問等
■木造について
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Q.
減災協議会の評価シートでいくつかの仕様の部分合板貼りの壁強さ倍率が示されているが、この評価シートにない仕様で使いたいときもある。そのときは、壁強さ倍率をどうすればよいか。
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A.
下記の報告で構造の評価は実験により定めていますので、板厚、釘ピッチなどの仕様が変わる場合は、実験が必要です。ただし、開口部の位置、大きさに関しては、面材の面積比に応じた評価式が示されているので、それを参考にして運用して下さい。今後、簡便で実用的な式の提示も考えます。
井戸田秀樹ほか, 「壁面に部分的な開口部を有する木造面材耐力壁の耐震性能」, 日本建築学会技術報告集, 第17巻, 第37号, pp.879-884, 2011.10.
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Q.
適用したいサイズよりも大きなサイズの金物しか手に入らないことがある。このとき、金物が木柱から一部はみ出すが使って問題ないか。
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A.
大きなサイズの金物を使うと、釘やビスの端明きが十分とれなかったり、あるいは穴が部材幅からはみ出して必要本数の釘やビスを施工できなかったりします。このような場合でも、釘やビス1本当たりの耐力を具体的に計算し、所定の性能があることが確認できれば使っても問題ありませんが、そうでない場合には適切なサイズの金物を使うことにしましょう。
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Q.
12mm合板が手に入りにくい。9mmを2枚貼ってもいいか。
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A.
強度はクギの耐力で決まるため、9mmを2枚貼っても12mm合板と同等な効果は得られません。
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Q.
土壁を残して耐震補強をすると、接合金物の施工時に一部土壁を落とさなければならない場合がある。このとき、土壁分の耐力評価はどうすればいいか。
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A.
明確な評価方法はありません。なるべく土壁が土台から梁までの力の伝達を確保できるように金物を設置して下さい。なお、減災協議会では実験に基づいた評価を検討中です。平成25年度中には評価方法を提案できる予定です。
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Q.
土壁と柱のチリに面材を設置するアルミアングル真壁補強では、12mmの合板を使うとチリに収まらず、合板が柱から飛び出してしまう場合がある。9mmでも使えるようにして欲しい。
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A.
実験をすれば性能評価ができて使えるようになりますが、他に社会的需要の高い技術も多く、優先順位を考えると実験の実施にはやや時間がかかります。
■鉄骨造について
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Q.
鉄骨柱脚の補強を簡単にしたい。
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A.
(一財)日本建築防災協会の「既存鉄骨造建築物の耐震改修施工マニュアル」に具体的な事例が掲載されているので、参考にしてください。
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Q.
隅肉溶接の簡単な補強方法を教えてほしい。
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A.
(一財)日本建築防災協会の「既存鉄骨造建築物の耐震改修施工マニュアル」に具体的な事例が掲載されているので、参考にしてください。
■RC造について
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Q.
部分スリットの規定は、壁に比べて柱が強い場合に緩和が可能ではないか。腰壁の上部はサッシのためにスリットを切りにくい。
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A.
(一社)建築研究振興協会のマニュアル(下記)では、添付資料のように、基本の残り厚さを50mmとし、スリットの長さhs 、既存壁のコンクリート強度Fc 、柱の強度Qc により緩和できるという式が提案されています。
「既存建築物の耐震診断・耐震補強設計マニュアル 2012年版」(一社)建築研究振興協会、(一社)構造調査コンサルティング協会、横浜市建築設計協同組合
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Q.
共同住宅の補強を簡単にできないか。
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A.
様々な補強工法が提案されており、より簡単な補強工法の開発は、今後も必須の課題だと思います。建防協の「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修事例集」、「既存鉄筋コンクリート造建築物の外側耐震改修マニュアル」等を参照してください。
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Q.
直径10cmのコアを抜くのが難しい建物が多い。直径5cmのコアで代用できないか。
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A.
診断基準改定委員会で検討中です。
清水厚年, 寺西浩司, 谷川恭雄, 杉山英祐(2008)「コアの寸法の違いによる試験値の差に対する各種要因の影響」コンクリート工学年次論文集, Vol.30, No.2, pp.805-810, 2008.7
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Q.
ねじれの大きい建物を耐震診断するとき、例外規定のために極度に低いIs値となることが多いが、不合理ではないか。
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A.
下記の文献で報告されているように確かに不合理と思われますが、その点については下記文献を参考にしてください。
市之瀬敏勝,石川慎也,鈴木芳隆,高橋 之(2012)「偏心の大きい1 層多スパンRC 建物の耐震診断法」コンクリート工学年次論文集, Vol.34, No.2, pp.1093-1098, 2012.7
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Q.
1999年以降、カットオフ筋に関するRC規準の規定が極端に難しくなった。一方、2011年の東日本大震災ではカットオフ筋を持つ梁で付着破壊が見られた。規定を単純化し、使いやすくしてほしい。
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A.
2012年に実験を行い、改善に向けてのヒントが得られました。2013年にも実験を行って、提案を行いたいと思っています。結果の一部は下記で発表しています。
伊藤, 長谷川ほか「2段目主筋をカットオフしたRC梁主筋の付着割裂強度」日本建築学会構造系論文集, 第78巻 第690号, 2013.8
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Q.
鉄骨ブレースで補強した建物では耐力の割に初期剛性が低い。このような建物で初期剛性を用いてSD値を算定すると、危険側の評価にならないか。
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A.
下記の文献で報告されているように、確かに危険側であり、その点については下記文献を参考にしてください。
高田瑞恵, 川瀬喬久, 市之瀬敏勝, 壁谷澤寿海 (2012) 「弱層を有する多層RC 建物の耐震診断」コンクリート工学年次論文集, Vol.34, No.2, pp.1087-1092, 2012.7
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Q.
RC構造の上にS造が乗る場合、Fs値がほぼ2.0となるが、これは正しいのか。
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A.
RC部分の剛性を初期剛性ではなく、割線剛性で評価するのが妥当かと思います。現在診断基準改定委員会で検討中です。
モニタリングに関する質問等
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Q.
モニタリングについて、現状では構造技術者や建築主(施主)へのメリットが感じられない。将来的な展望はあるか。
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A.
モニタリング結果の蓄積から設計の妥当性が検証され、構造設計の高度化につながります。一方、特に、大規模災害の直後の緊急対応においては、建物被災状況や継続使用の可否判断の情報を速やかに出すことにより、建物使用者や防災担当者の適切な対応に活用できます。さらに、緊急地震速報や広域のリアルタイム地震観測情報との連動など利活用が考えられます。
構造技術者は、多数の建物の被災状況を判断する際に客観データを有効に活用できます。また長期的な建物維持管理に有効な資料となります。
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Q.
モニタリングは、コストが高い限り普及は難しい。
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A.
センサ、処理、通信等の技術開発により、将来的に安価になることが期待されます。また一般への普及のために、モニタリングシステム単独ではなく、緊急地震速報、エレベータ管制、さらには消防法で義務付けられる各種警報などと統合していくことで、コストダウンを図るとともに、法的な環境整備の道筋をつけていくことが将来的に期待されます。
■その他項目に関する質問等
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Q.
地震被害額の予測ソフトがほしい。
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A.
木造住宅を対象としたものであれば、下記のページに地震被害額の期待値を求める機能があります。
http://taisin-reform.net/index.php
RC造、鉄骨構造については、予測ソフトはありませんが、鉄骨構造であれば地震後の残留変形角と被害額の関係が以下の図書で定量化されていますので、建設地のハザードと建物の耐震性能の関係から残留変形角が評価できれば鉄骨造の被害額を求めることができます。
「鋼構造性能設計ガイドライン」(一社)日本建築学会, シンポジウム資料, 2005.
また、地震保険に関連して、「地震保険損害査定指針」が (一社)日本損害保険協会から出されており、被災建物を復旧するのに新築の何%の費用がかかるかの査定法が規定されています。この場合も、損傷度の予測が必要であり、耐震診断値などと被害想定曲線が用いられることになります。